海外で自然に英語を使っていた子どもが、日本に帰ってから英語を話さなくなる…。
多くの帰国子女の保護者が感じる、少し胸がざわつくような変化です。
「英語、忘れちゃったのかな?」
「このまま話せなくなったらどうしよう…」
でも実は、これは“よくあること”であり、学術的にも説明がつく現象です。
言語学には 第二言語喪失(Second Language Attrition) という分野があり、
“使う頻度が減ることで第二言語が出にくくなる” というメカニズムが研究されています。
そして、子どもは環境に敏感だからこそ、その変化をより強く受けやすいのです。
大切なのは、
「落ちている…どうしよう」ではなく、
「どうすれば取り戻せるか・防げるか」
に目を向けてあげること。
ここでは、研究でわかっていることと、家庭でできる実践的なサポートをまとめました。
帰国後に英語力が落ちてしまうのはなぜ?
① 英語を「使わなくても困らない」環境になる
第二言語喪失の研究では、「使用頻度の激減がもっとも強い影響を与える」と報告されています(L2 Attrition に関するレビュー研究など)。
日本に戻ると、
- 学校
- 友だち
- 家庭
- テレビやネットなどのメディア
ほぼすべてが日本語になります。英語は、生活の「必要な言語」ではなくなってしまいます。
言語は筋肉と同じで、使わなければ弱るという性質があります。これは子どもに限らず、大人にも起こる自然な反応です。
② 日本語のキャッチアップが優先される
帰国子女を対象にした研究では、帰国直後は「日本語の語彙や読解を伸ばすことにエネルギーが向きやすい」ことが報告されています。日本語での教科学習に追いつこうとすると、どうしても英語に向ける時間や心の余裕が減ってしまいます。
これは決して悪いことではなく、むしろ自然な流れです。ただ、その間に英語に触れる機会が極端に減ると、英語が少しずつ後ろに下がっていきます。
③ “話す相手の不在”が決定的な影響を与える
第二言語喪失に関する研究では、「聞く・読む」よりも「話す・書く」といったアウトプットが先に低下しやすいことがわかっています。特に「話す」は、相手がいて初めて成り立つ活動です。
子どもにとって、英語は次のような状況になることが多いです。
- 英語で話しても通じる相手が身近にいない
- クラスメイトとの会話はすべて日本語
- 英語を話す場面が「特別な時間」だけになる
すると、「がんばって英語を話さなくても困らない」「日本語だけで十分」という感覚が育ち、英語を使う機会がさらに減っていきます。
④ 自信の喪失が「英語を避ける行動」につながる
研究では、第二言語喪失の過程でよく見られる流れとして、
- 言葉がうまく出てこない
- 「自分の英語が下手になった」と感じる
- 間違えるのが嫌で、話す場面を避ける
といった心理プロセスが指摘されています。
子どもはとても敏感です。もともと完璧主義な子や、恥ずかしがり屋の子ほど、「うまく話せない自分」を見せたくなくて英語から距離をとろうとすることがあります。
このように、英語力が落ちてしまう背景には、単に「勉強していないから」という理由だけでなく、環境の変化・使う頻度・子どもの気持ちが複雑に関わっています。
このままだと英語力が下がる?気づきたいサイン
第二言語が使われなくなっていく過程は、突然ではなく、少しずつ表面に現れてきます。早めに気づいてあげられると、家庭での対策も取りやすくなります。
① 英語での返答が遅くなる
以前はスッと出ていた英語のフレーズが、最近は少し考え込んでから出てくる…。これは、知識そのものが消えたわけではなく、「脳内の英語回路へのアクセスに時間がかかっている」状態と考えられます。
第二言語喪失の研究でも、このような「反応の遅さ」は初期のサインとしてよく報告されています。
② 単語がすぐに出てこない(tip-of-the-tongue が増える)
「あの単語、なんだっけ?」と、英語の単語が舌先まで出かかっているような感覚が増えることがあります。これも「忘れた」ではなく、アクセスしにくくなっているだけだと説明されることが多いです。
この段階で少し英語に触れる量を増やしてあげると、比較的スムーズに戻ってくることも多いです。
③ 英語を使いたがらない
「英語で言ってみて?」とお願いすると、
- 「やだ」「恥ずかしい」と拒否する
- 急に静かになってしまう
- 日本語で返してくる
こうした行動の裏には、「間違えたくない」「前の自分ほど話せない」という不安や自信の低下が隠れていることがあります。
子どもに「なんで話さないの?」と問い詰めるのではなく、「そう感じているんだね」と受け止めつつ、そっと英語との距離を調整してあげることが大切です。
今日からできる“英語力低下の防ぎ方”
ここからは、研究で分かっている原因に対して、家庭でできる具体的な対策を紹介します。前回の「英語を維持する方法」よりも、「落ちてきた英語をどう守るか・戻すか」にフォーカスしています。
① 使用頻度低下への対策:生活に英語を少量混ぜる
第二言語喪失の研究では、「少しでも継続的な接触があると、喪失を大きく防げる」ということが繰り返し示されています。ポイントは「長時間」ではなく「頻度」です。
家庭でできる具体例としては、
- 飲み物や気分だけ英語で言ってみる(I’m thirsty. / I’m happy. など)
- 寝る前に「今日一番楽しかったこと」を英語でひと言だけ話してもらう
- 親が先に “I’m tired…” と英語でつぶやいてみる
すべてを英語にする必要はなく、日本語の中に一部だけ英語を混ぜるくらいの感覚で十分です。特に、親のほうから先に英語を使ってみせると、子どもも抵抗なくついてきやすくなります。
② 日本語キャッチアップへの対策:“両言語を守る”姿勢
日本語の学習や友だちとの関係づくりは、帰国直後の子どもにとってとても大切な課題です。そのため、英語にばかり意識を向けすぎると、子どもにとってはプレッシャーになってしまうこともあります。
大切なのは、
- 「日本語も英語も、どちらも大切なことばだよ」と伝える
- 日本語の宿題や読書もしっかり応援する
- 英語だけを特別視しすぎない
というスタンスです。英語を守りたい気持ちは大切にしつつ、子どもの負担にならないバランスを一緒に探していけると安心です。
③ 話す相手がいない問題への対策:小さな会話シーンづくり
英語を話す相手がいないと、アウトプットがどんどん減ってしまいます。とはいえ、いきなり「毎日英語で会話しよう」と決めると続けるのが大変です。
まずは、次のような小さな会話シーンから始めてみましょう。
- 朝と夜に、親子で英語の一言あいさつをする
- 兄弟同士で「今日の合言葉」を英語にする
- ごっこ遊びの中に、英語のフレーズを少し入れてみる
英語を「がんばるもの」ではなく、「ちょっとした遊びの時間」として取り戻してあげるイメージです。
④ 自信低下への対策:“成功しやすい英語”に戻す
研究でも、第二言語を守るうえで「成功体験」が非常に重要であることが指摘されています。うまく話せない経験が続くと、どうしても言語から離れたくなってしまいます。
そこで、最初はあえて「簡単で、すでに知っている英語」に戻してあげるのがおすすめです。
- 昔大好きだった英語アニメや番組をもう一度見る
- 何度も読んだことのあるお気に入りの英語絵本に戻る
- 歌やフォニックスソングなど、楽しく口ずさめるものを選ぶ
「あ、これ分かる!」「まだ覚えてた!」という瞬間は、子どもにとって大きな励みになります。そこから少しずつ新しい表現や難しい内容にステップアップしていけば大丈夫です。
子どものタイプ別:続けやすい英語習慣
同じ帰国子女でも、性格や得意なスタイルによって、続けやすい英語との付き合い方は変わってきます。ここでは、タイプ別に合いそうな習慣の例を紹介します。
コツコツ型の子ども
- 1日1行の英語日記を書く
- 週に1冊、レベルに合った英語本を読む
- 毎日同じ時間に英語に触れるルーティンを作る
決まったペースで少しずつ進めることが得意な子は、「毎日少し」が得意分野です。スケジュールを一緒に決めてあげると安心して取り組めます。
アクティブ型の子ども
- 英語でクイズ大会やビンゴをする
- 英語でミッションゲーム(お手伝いゲームなど)をする
- 英語の動画を一緒に見て、リアクションを英語でやってみる
体を動かしたり、遊びながら学ぶのが好きな子は、「机の上の勉強」よりも体験型の英語のほうが向いています。
シャイな子ども
- まずは「聞くだけ」「読むだけ」でもOKにする
- 英語のひとりごとや、小さな声での練習を許可する
- 1日1フレーズだけ、新しい表現を増やす
人前で話すのが苦手な子にとっては、「話しなさい」と言われること自体がストレスになってしまうことがあります。「聞く」や「読む」からスタートし、無理なく話せるタイミングを待つイメージで見守ってあげましょう。
忙しい家庭でもできる“5分防衛法”
毎日忙しいご家庭でも、第二言語喪失のリスクを少し下げる「5分の工夫」を取り入れることは可能です。
① 寝る前の5分英語タイム
寝る前は一日の中でも比較的落ち着いた時間です。英語喪失に関する研究でも、「就寝前の言語刺激は記憶に残りやすい」と言われることがあります。
- 英語の絵本を1〜2ページだけ読む
- 英語の歌を1曲だけ一緒に歌う
- 今日の出来事を英語でひと言だけ話してもらう
② 朝の英語フレーズ1つ
朝は頭がスッキリしている時間帯です。短いフレーズを覚えるのに向いています。
- Good morning. How did you sleep?
- Let’s go!
- It’s time for breakfast.
このように、毎朝同じフレーズを使うだけでも、英語のリズムを保つ助けになります。
③ いつでも触れられる“英語の置き場所”をつくる
視界に入るだけでも、その言語への意識は保たれやすいとされています。
- リビングに英語の本や絵本を数冊置いておく
- 冷蔵庫に英語の単語カードやフレーズを貼る
- 玄関に英語の一言フレーズポスターを貼る
「特別な勉強スペース」ではなく、日常の中に英語が紛れ込んでいる状態をつくるのがポイントです。
外の力を使うときのポイント
家庭だけでの工夫に限界を感じたときは、外部サービスをうまく取り入れるのも一つの方法です。研究でも、「社会的な言語接触」は第二言語を守る大きな要因とされています。
① 週1オンライン英会話
オンライン英会話は、「英語を話す相手がいない」という問題を解決しやすい手段です。週1回、20〜25分程度でも、
- 英語で話す自分の感覚を思い出す
- 褒められる経験が自信につながる
- 外国人の先生と話す楽しさを再確認できる
といった効果が期待できます。
② 英語で遊ぶ教室
英語アフタースクールや、英語で遊ぶことを重視した教室は、「英語を勉強する場」ではなく、「英語で遊ぶ場」として機能します。これは、英語への自信やポジティブなイメージを取り戻すのにとても役立ちます。
③ 季節ごとの英語キャンプ
夏休みや冬休みに行われる英語キャンプや短期プログラムは、短期間で集中的に英語環境に身を置くことができます。第二言語喪失の観点から見ても、「一時的でも濃い接触があると、英語の回路が再び活性化しやすい」と言われています。
英語を“守る”のは、小さな自信と小さな習慣
帰国子女の英語力が落ちるのは、決して親や子どもが悪いわけではなく、環境が変わったことへの自然な反応です。研究でも、「第二言語は完全に消えてしまう」というよりは、「使わないことでアクセスしにくくなる」と説明されています。
だからこそ、家庭でできるのは、
- 生活の中に少しだけ英語を戻してあげること
- 英語を話せる相手や場面を小さく作ってあげること
- 「できた!」という成功体験を積み重ねて、自信を守ってあげること
といった、小さな工夫の積み重ねです。
英語は、いったん距離ができても、また戻ってくる言語です。焦らず、親子のペースで「英語との心地よい距離感」を探していければ大丈夫です。今できることから、無理なく一つずつ始めてみてください。

