「自分が英語苦手だから、子どもをバイリンガルになんて育てられないかも…」と感じている保護者の方は、とても多いです。
ですが、言語習得の研究を見ていくと、親の英語力そのものより「どんな環境をどれくらい継続して用意できるか」のほうがはるかに重要だとわかってきています。
この記事では、国内外の言語習得研究やバイリンガル教育の論文でわかってきたことをベースにしながら、英語が得意でない親でも、家庭でバイリンガル環境をつくるための現実的な方法をまとめました。
読み終わるころには、「英語が苦手でも、できることは思ったよりたくさんある」と感じてもらえるはずです。
親が英語苦手でも子どものバイリンガルは可能
「親の英語力=子どもの言語能力」ではない理由
二言語で育つ子どもを追跡した研究では、親の英語力の高さよりも、次のような要素が子どもの言語発達と強く結びついていることが、繰り返し報告されています。
- 家庭でどのくらいその言語が使われているか(インプットの量)
- 絵本の読み聞かせや会話など、どんな場面で言葉が使われているか(インプットの質)
- 学校・オンラインレッスンなど、複数の場面でその言語に触れているか
カナダやアメリカの研究では、家庭内の読み聞かせや会話の習慣が、そのまま子どもの語彙力や読解力の差に表れていたという報告が多くあります。また、日本の研究者たちも「親の英語がネイティブ並みである必要はなく、環境づくりと継続のほうがはるかに大切」と指摘しています。
科学的に見た「言語習得=環境と量」の重要性
バイリンガルの子どもを対象にした研究では、次のような傾向が共通して見られます。
- インプットの時間が長い言語ほど、語彙や文法の発達が速くなる
- 家庭と学校の両方で使う言語は、発達が安定しやすい
- 二つの言語を合わせた「言語力の総量」は、一言語の子と同程度になる
つまり、子どもの言語発達を考えるときに大事なのは、「親がどのくらいペラペラか」ではなく、「家庭で英語に触れる時間や場面をどのくらい用意できるか」です。英語が苦手な親でも、ここは十分に関わることができます。
バイリンガル環境は家庭でつくれる ― 日常でできる工夫
聞く/読むインプットを増やす簡単な方法
「バイリンガル環境」と聞くと大がかりに感じますが、家庭でできることはとてもシンプルです。研究の世界でも、家庭での読み聞かせや歌・会話の時間が子どもの語彙力と強く関係していることが確認されています。
家庭で増やしやすいインプットの例
- 英語絵本の読み聞かせ(発音が不安ならオーディオ付きや動画を活用)
- 英語の歌・童謡を、朝やお風呂の時間の定番BGMにする
- 英語のアニメやストーリー動画を「1日1話だけ」など、量を決めて視聴
- 音声付きの英語アプリで、子どもが自分でタップして単語やフレーズを聞く
ポイントは、一度に長時間やることではなく「毎日少しずつ続けること」です。たとえば次のようなイメージです。
- 朝ごはんのあとに英語の歌を1曲流す
- 寝る前に英語絵本を1冊読む
- 週末は英語アニメを1話だけ一緒に観る
このように、生活リズムの中に英語を「習慣」として組み込んでしまうと、親の負担もぐっと減ります。
話す機会やアウトプットの工夫(親が苦手でもできる)
「自分が英語で話せないから、子どもに話す練習をさせてあげられない…」と感じてしまいがちですが、アウトプットの場は親以外にも用意できます。
- 子ども向けオンライン英会話で、週1〜2回先生と話す
- 英語教室やインターナショナルスクール、アフタースクールを活用
- お人形やぬいぐるみを使って、英語のセリフを真似する「ごっこ遊び」をする
- アプリや動画から聞こえた英語フレーズを、ゲーム感覚で一緒に真似する
バイリンガル研究では、家庭・学校・メディアなど複数の場で「聞く+話す」の経験が積み重なることが、その言語を維持・発達させるのに役立つとされています。親が流暢に話せなくても、「子どもが英語を使える場を見つけてあげる係」になれれば十分です。
日本語とのバランスを取るコツ
日本の研究者たちは、バイリンガル育児で大切なのは、どちらか一方でいいので年齢に見合った「読み書き・考える力」をしっかり育てることだと強調しています。どちらの言語も中途半端になる「セミリンガル」が心配されることがありますが、
- 日本語でも英語でも、年齢相応の読み書きの経験が不足している
- どちらの言語でも「じっくり考えて話す・書く」経験が少ない
といった環境が重なると、学習面でつまずきやすくなると言われています。
日本で育つ多くの家庭では、
- 学校や家庭学習を通して日本語の読解力・作文力をしっかり育てる
- 英語は最初は「聞く・話す」を中心に、少しずつ「読む・書く」に広げていく
というバランスを意識しておくと安心です。
英語が苦手な親が覚えておきたい「育て方のポイント」
継続できる“無理のない習慣づくり”
多くの研究で共通しているのは、「インプットの量は、まとまった時間よりも、日々の積み重ねが効いてくる」という点です。つまり、毎日5〜10分でも英語に触れている家庭は、週に1回だけ長時間がんばる家庭よりも、結果的に総量が多くなりがちです。
続けやすくするための工夫の例
- 「毎日30分」ではなく「毎日5〜10分」を目標にする
- 親が疲れている日は「英語動画を一緒に観るだけ」などハードルを下げる
- 曜日ごとに「英語絵本の日」「英語の歌の日」などざっくりテーマを決める
完璧を目指すよりも、「ちょっとずつでも続ける」ことを最優先にするのがコツです。
親は“英語講師”でなく“サポーター兼プロデューサー”でOK
家庭の言語環境を調べた研究では、親の英語力そのものよりも、
- 「自分の関わりが子どもの言語発達に影響する」と信じているか(親の信念)
- 家でどの言語をいつ使うかという、ざっくりしたルール(言語管理)
が、子どものバイリンガル発達と結びついているという報告があります。
つまり、親が目指すべきなのは「英語の先生」ではなく、「子どもが自然に英語に触れられる環境を設計するプロデューサー」です。
- 教材やアプリ、レッスンを選ぶ
- 英語に触れる時間帯や習慣を決める
- 子どもの「できた!」を一緒に喜ぶ
この3つができていれば、「親が英語を教えないといけない」というプレッシャーからは解放されます。
完璧を求めすぎず「成長を楽しむ」姿勢
バイリンガルの子どもは、一つ一つの言語だけを切り取ると、同年齢の単一言語の子どもよりも語彙が少なめに見えることがあります。しかし、二つの言語を合わせて見ると、総合的な言語力は同じくらいか、それ以上になるという報告もあります。
そのため、次のような心構えでいると、親も子どもも気持ちが楽になります。
- 「同い年の日本語だけの子」と一対一で比べすぎない
- 英語でも日本語でも、できるようになったことを一緒に喜ぶ
- 間違いは「成長の途中の証拠」と考える
親が英語を完璧に話せなくても、「一緒に練習している仲間」として寄り添えること自体が、子どもにとっては心強いサポートになります。
科学研究が示すバイリンガル育児のメリットと注意点
早期バイリンガルの認知・脳発達への良い影響
バイリンガル研究では、二つの言語を切り替えながら生活することで、注意のコントロールや柔軟な思考(実行機能)に良い影響が出る可能性があると報告されています。
- 就学前のバイリンガルの子どもが、注意の切り替えやルール変更に強いという実験結果
- 二言語を使い分ける経験が、脳の「切り替え」のネットワークを鍛えているとする神経科学的な研究
もちろん、「バイリンガルなら必ず頭がよくなる」という単純な話ではありませんが、きちんと環境を整えれば、認知的なプラスも期待できるというのは、保護者にとっても心強いポイントです。
多言語入力の「量」と発達の関係 ― インプットの重要性
一方で、多くの研究が共通して指摘しているのは、インプットの量が不足している言語は、どうしても発達がゆっくりになりやすいということです。
- 家庭でほとんど使われていない言語は、語彙の伸びも限定的になりやすい
- 「なんとなく聞いているだけ」より、子どもが意味を理解しながら聞いているインプットのほうが効果が高い
そのため、
- 子どもの好きなキャラクターやテーマを使った絵本・動画を選ぶ
- 英語を流しっぱなしにするだけでなく、ときどき内容について日本語で会話する
など、「子どもにとって意味のあるインプット」を増やす意識が大切です。
バイリンガルだからといって“放置”はNG ― 継続とバランスの必要性
古い研究の中には、「幼少期に二つの言語を与えたのに、結局どちらか一方しか話さなくなった」という事例も報告されています。分析を読むと、
- 家庭や学校で、その言語がほとんど使われなくなった
- 子どもにとって、その言語を使う意味や必要性が感じられなかった
といった背景がありました。
つまり、二つの言語を与えるだけでなく、
- どの場面でどの言語を使うか(家では英語の時間をつくる、など)
- どちらの言語も「役に立つ言葉」として使える場面を用意する
といった継続とバランスが大切だということです。
年齢別で考える「どの時期に何を意識するか」
乳幼児期(0〜3歳):聞く/音に親しむ時期
この時期は、意味をはっきり理解していなくても、「耳からたくさんの音を浴びる」ことが中心です。研究でも、乳幼児期から複数の言語の音に触れている子どもは、音の聞き分けや発音で有利になる可能性があると報告されています。
この時期のポイント
- 英語の歌や童謡を、毎日決まったタイミングで流す
- リズムのある英語絵本を、テンポよく読み聞かせる
- 親の発音は完璧でなくてOK。簡単な英語フレーズをときどき混ぜる(Good morning, Yummy! など)
幼児〜幼稚園期(4〜6歳):意味理解と遊びでのアウトプット
この頃になると、子どもは言葉の意味を意識的に理解できるようになり、「これは英語」「これは日本語」という区別もできてきます。
- 絵本の内容について、日本語で質問しながら読む(「この子は今どんな気持ちかな?」など)
- 英語のセリフを真似して、ごっこ遊びに取り入れる
- 生活の中で使える簡単な英語フレーズを、「決まり文句」として家族で使ってみる
遊びを通した言語活動は、研究でも語彙や表現力を伸ばすうえでとても有効だとされています。「ちゃんとした勉強」よりも、「楽しさ」と「繰り返し」を大事にしてあげてください。
小学生以降:読む・書く能力を視野に入れた学習
小学生になると、英語でも日本語でも「読んで理解する力」「書いて表現する力」が重要になってきます。
- レベルに合った英語の多読(簡単な本をたくさん読む)を取り入れる
- 絵日記や簡単なメッセージなど、短い英作文にチャレンジする
- 英検など、子どもの負担になりすぎない範囲で目標になるテストを活用する
同時に、日本語の読解力や作文力をしっかり育てておくことで、他教科の学習や将来の進路にも大きなプラスになります。「日本語で深く考える力」と「英語でコミュニケーションする力」の両方を、少しずつ伸ばしていくイメージです。
親が英語苦手でも、環境と工夫でバイリンガルは育てられる
最後に、この記事のポイントをもう一度整理します。
- 親の英語力の高さよりも、家庭でどれだけ英語に触れる時間と場面を用意できるかが重要
- 研究でも、家庭での読み聞かせや会話などのインプットの量と質が、子どもの言語発達と強く結びついている
- 日本語と英語のバランスを意識しながら、どちらか一方では年齢に見合った読み書き・思考力を育てる
- 英語が苦手な親でも、教材やレッスンを選び、習慣を作り、「できた!」を喜ぶサポーター兼プロデューサーになれば十分
- 完璧を求める必要はなく、毎日の小さなインプットと成功体験の積み重ねが、バイリンガルへの一番の近道
親が英語を苦手だと感じているからこそ、子どもの「わからない」「むずかしい」に共感できる場面もたくさんあります。
「ママ(パパ)も英語は練習中なんだ。一緒に少しずつできることを増やしていこうね。」
そんな言葉をかけてあげられること自体が、バイリンガル育児の大きな強みです。英語が得意かどうかではなく、「一緒にチャレンジする親子でいること」こそ、子どもにとっていちばん心強い土台になります。

